何のためにそれをするんだという訓練は、少年野球のうさぎ跳びから新日本プロレス道場のエンドレスなヒンズースクワットなど数え上げたらキリがない程古今東西に溢れていますが、自衛隊はその総合商社のようなところであります。レンジャー訓練などはそれ全体が不撓不屈の理念のもと、社会通念に照らして合理性を完全に無視したものばかり??で成り立っていますが、そのレンジャー訓練を経た私の目から見ても度胆を抜く訓練がこの平成の世に誕生いたしました。それが栃木県にあるCRR(中央即応連隊)の丸太運びであります。
この丸太運びがどんな訓練なのかさり気なくCRRにいたかつての同期に聞いてみたりするんですが、「いやぁ丸太を運ぶんだよ。大変だよ、全く。」としか教えてくれません。戦後派が戦中派に嫉妬したように、昔はあったが、今は負傷者が続出した等の理由でその訓練が廃止され「いやぁ、あれは本当に大変じゃった。」とか言われるのはいいんですが、今回はその逆で、昔の世代の人間が今の現役の人の訓練に嫉妬その他の複雑な心境を抱くという構図になってしまっています。いったいどうして丸太を運ぶなんて言う旧態依然とした訓練がこの平成の世に出現したのでしょうか?
武山駐屯地で新隊員訓練を受けているとき、各国の軍隊の訓練を特別に編集した映像を見させられたことがありました。どれも凄まじい訓練ばかりでしたが、韓国の海兵隊のそれは群を抜いており、その中の一つが海兵隊員たちが一列に並び、巨大な丸太を左肩から右肩へ、右肩から左肩へ、永遠に思えるほど上げ下げする訓練だったのです。
機動力を生命線と考える当時の陸上自衛隊の訓練は走ることに重きが置かれ、来る日も来る日も走り続けて筋肉は研ぎ澄まされていく反面、どこかしら萎んでいくようにも見えました。そんな杞憂に近い不安の最中にみた韓国の海兵隊員たちの三角筋から僧帽筋に掛けての異様な盛り上がりに、私は羨望に塗れた嫉妬心を抱いたものです。班長にみんなでアレをやりましょうと直談判しましたが一笑に付され、2等陸士が軽口を叩くんじゃないと指導を受けたのは言うまでもありません。
私と丸太との因縁をこの場で話させて頂き、CRRの現役隊員に対する嫉妬心が少し和らいだような気がします。また何か丸太運びについて分かったら報告します。因みに、冒頭のうさぎ跳びについては私が小学校に上がる前には完全に消滅していました。しかし、新日本プロレスではまだエンドレスのヒンズースクワットは行われているようで、これを百年に1人の逸材棚橋弘至は「筋肉への愛だ」と銘打っていました。愛ってとてもいい言葉ですね(笑)