戦力外通告を受けた男たち

年の瀬が押し迫るこの時期、毎年猛烈に楽しみにしているテレビ番組があります。

その番組は、紅白歌合戦でもなければ、ダウンタウンの笑ってはいけないでもありません。そもそもそれは大晦日の番組ではない。大晦日より少し前、12月の29日か30日に放映される、ある男達が輝かしい栄光を背負いながらも転落し最後の逆転に挑むという番組、勝てないとは知りつつ敢えて勝負に挑む男達を描いた濃密にドラマティークなドキュメンタリー番組、そろそろ名前をいいましょう。そう、「戦力外通告を受けた男たち」です。子供を背負い、近所のイトーヨーカ堂の食品レジに立ちながら司法試験のシーズンを送っていた頃から、僭越ながらも私は自分自身に重ね合わせてこの番組を観ていました。

プロ野球選手は言うまでもないことですが、もの凄い職業です。年に一度の報酬が昨年からどのくらいアップしたかが白日の下に晒され、スター選手となればそれにサインしたかしなかったかをしつこく聞かれるところまで放映されます。片や、イトーヨーカ堂の給料は毎月大体同じで上がりもしなければ下がりもしない、振り込みなのでサインするところもありません。職業に貴賤はないと言いますが双方には途方もない距離感があるところ、唯一年に一度だけグッと距離が縮まる、プロ野球選手が織姫ならば私が彦星になれる日。それが今年で言えば30日の「戦力外通告を受けた男たち」が放映されるその日なのです。

殆どのプロ野球選手はスターとして産まれてきた選ばれた人間です。甲子園で活躍してドラフトで指名され母校の英雄となる。概して背は高く、身長は175センチあっても体格に恵まれないと言われてしまう。語れば語るほど、「…ヒロシです。」になってしまう人種ですが、競う相手も同じように神様に選ばれた人間たち、そうでなくても栄光は決して永遠に続く訳ではありません。いつしか2軍生活が長くなり、怪我も重なりとうとうその日はやって来ます。一縷の望みを賭けてトライアウトに臨む。各チームのスカウト陣の熱い視線の中3打数2安打の好成績、あとは連絡を待つだけです。いつ電話が掛かってくるか分らないため外出もできず、何も知らない子供たちが無邪気に家の中で走り回っている。スポーツ新聞では次々と仲間が再就職を決めてゆくのを複雑な心境で知りながらも時間だけが過ぎて行く…。大体毎回同じような流れですが、その流れは西の初めてのお使い、東の戦力外とも言えるほど完成し尽くされています。男達は連絡が無ければもはや一生野球で勝負することが出来ない、その後はただの人として暮らしていかなければならないのです。

当時、負けが込み、というか一次試験も合格しておらず、妻からの戦力外通告に戦々恐々とする生活を送っていた私にとって大晦日前のその番組を観るのは確実に聖夜よりも大切な夜でした。家族が寝静まった夜に、いつもより上等な酒とあたりめを小脇に抱えながらテレビに噛り付いていたのです。

今年も男達のイブが近づいてきました。何とかまだマウンドに立たせてもらっていますが、今年はどんな思いで戦力外を観るのか自分でも楽しみにしています。えっ、年末はいつまで営業しているんですかって?年明け1月3日まで営業していますよ。皆様の話を聞きたいんです。たとえ夜中でも構いません。JR埼京線と武蔵野線のクロスポイント、ここ武蔵浦和で皆様のお越しをお待ちしております。

 

 

 


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