職業病としての水虫とドクターフィッシュ

私が通うゴールドジムのシャワールームには「ドライアーは髪の毛を乾かすのみに使用して下さい。」という張り紙があります。どうしてこのような張り紙があるかと言うと勿論ドライアーを髪の毛を乾かす以外に使用する人がいるからなんですが、その驚きの使用方法とは「水虫になった足の指の隙間に風を送る」ことなんです。まさか「水虫になった足の指の隙間に風を送るためにドライアーを使用しないで下さい。」という張り紙は出せないので冒頭のような一見して摩訶不思議な張り紙になったんだと思います。確かにドライアーは風を吸い込むものではないですが、我が国には「糞を味噌と一緒にするな」という言葉があります。窮地に陥っても用途を違えないという最低限のマナーを守ることが人間の品性を維持する上でも必要だということでしょうか。

ところで、一度罹患するとなかなか治ることはないのが水虫という病気。特に自衛隊の半長靴に夏用も冬用もなく、もって常に誰かが密かに水虫に罹患しているため至るところで感染の可能性が現存し、特に風呂場では脱衣所のマットを踏まずに脱衣するという不文律が出来上がっているほどそのリスクは高まって来ます。

幸い、私は在隊中に水虫に罹患することはありませんでした。しかし入隊前、今から思えばまだキッズに近かった19歳の冬、大学留年の危機を乗り越えるため日課にしていた腕立て伏せを止めて暫くした時に水虫に罹患した経験があります。旧約聖書のヨブ物語を彷彿するような想像を絶する痒みに悶え苦しみ、身体を温めるためのストーブを水虫の痒みを和らげるために使用するというゴールドジムのシャワールームにいるトレーニーと同様の品性の喪失を成人前に既に経験していたことになります。もちろん痒みは和らぐどころか、逆にヒートアップし、痒さと熱さで品性どころか意識を喪いそうになるという壮絶に孤独な夜を過ごすこと10日あまり、市販薬では水虫は治らないという同じ水虫キャリアの父親の忠告に従って近所の皮膚科に行き事なきを得、無事に留年の危機も回避させて頂きました。

その後自衛隊を経て、奇しくも人生の興廃を決する司法試験受験中に水虫に罹患した事があります。初めて罹患してから長い年月が経ち、随分市販薬も進化を遂げただろうと思って何とかブロックという薬を買いましたが、爽快感が心持ちアップしたような気がしただけで、いま思えば限りなくキッズに近かった19歳の冬同様、逆に悪化しちっとも治ることはありませんでした。いつになっても車のタイヤがなくなる気配がないように、進化しているようで進化してないものが世の中にはあるようです。その時どうやって水虫を治したかと言うと結論としては19歳の時の父親の忠告通り、近所の皮膚科に行きました。軟膏を塗り足の指一本一本丁寧に包帯を巻かれて行く私の足の指が司法試験の激闘を雄弁に物語っているかのようでした。診察後、足を引きずりながら子供達とともに近所のマーケットプレイスに行くと広場で「ドクターフィッシュ」が開催されており、買い物客が気持ちよさそうに小魚がたくさん泳いでいる池に足を入れて楽しんでるのが目に入ったのです。一瞬、私に逢魔時が訪れました。しかし、人の親として小魚たちが突然ぷかーっと浮かび上がり子供達の悲鳴を挙げるという惨状は望んでいなかったですし、その時まだ司法試験受験生でしたが人としての最低限の品性は持ち合わせていたためその恐ろしい試みは既遂されませんでした。ただ、その池に泳いでいた魚が本当に「ドクター」なのであれば、他の誰よりも私がそのドクターの治療を必要としていたことは間違い無かったでしょう。

他方で自衛隊病院で処方される水虫の薬は組織の特性上効き目が強く、その治癒力に誰もが驚愕するとのことです。私はその目を疑うという威力を一度も経験していません。次にその窮地に陥ったときは、薬局に行くことなく迷わず自衛隊病院を訪れたいと考えています。


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